3007年、今度は創業300年の心の不正が明らかになった。
心の製造販売をするレッドハッピー社だ。
3007年、科学文明が極限まで発展した今、人間はありとあらゆることを
コンピュータと機械に任せてきた。その結果、人間は自分で自分の心をコントロールできなくなってしまっていた。人間が人間として生きていくには、心を定期的に購入し、交換しなければならない。
そこで登場したのが心の製造販売をするレッドハッピー社だ。
大ヒット商品は、18世紀における近代的人間像を象徴する人物でアメリカの政治家であり物理学者でもあるベンジャミンフランクリンの「13徳の心」
セットだ。
この13徳は、現代人にとって化石のような考え方の心であるが、時を越えて、若者には新鮮に映ったのであろう。その結果、ここ数十年、世界は良くなった。ニートはなくなり、
子どもを標的にした犯罪や親が子の命を子が親の命を奪う事件も皆無になった。世界中で戦争がなくなり、民族間でいがみ合うこともなくなった。とにかく衝撃的な出来事は激減した。さらに、この13徳の心を身につけた人間は次々に偉業を成し遂げていったからだ。
その13徳の心とは次のようなものであった。
1. 節制の心 飽くほど食うなかれ。酔うまで飲むなかれ。
2. 沈黙の心 自他に益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するなかれ。
3. 規律の心 物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
4. 決断の心 なすべきをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
5. 節約の心 自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち、浪費するなかれ。
6. 勤勉の心 時間を空費するなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて断つべし。
7. 誠実の心 詐りを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出ですこともまた然るべし。
8. 正義の心 他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
9. 中庸の心 極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
10. 清潔の心 身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
11. 平静の心 小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
12. 純潔の心 男女の
恋愛に耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他の平安ないし信用を傷つけるがごときことあるべからず。
13. 謙譲の心 イエスおよびソクラテスに見習うべし。
しかし、平和な世界は長続きしなかった。その原因となったのは、レッドハッピー社の「13徳の心」だ。高品質で新鮮が売りのレッドハッピー社の商品だったが、売れ残った商品を冷凍保存し、それを
解凍し、製造日を印刷し直し販売していた。
その結果、新鮮なはずの心は傷み、それを身につけた人間は13徳とは全く逆の心を持った人間になっていった。「13徳の心」ではなく「13悪の心」になってしまった。世の中には悪が蔓延し、世界中の人間がいがみ合い、戦争が起こり、原因不明の疫病が流行した。人々は家に閉じこもり、もとの状態よりもさらに悪い状態になってしまった。
世界心情機構(WMO)はレッドハッピー社から相談を受けていたにも関わらず、精査せず、なぜ悪質な処理を見抜けなかったのか。今となってはもう遅い。みんな自分達のことしか考えていない。「売れるのであれば何でもする。」「消費者も様々な不正を見抜く目もなくなり、そんな不正に対し、憤りも感じなくなっていた。」
夢野大志(ゆめのたいし)と望月愛希(もちづきあき)は裕福ではなかったため、高価な心を買うことはできなかった。しかし、今となっては、心を買えなかったことがむしろ二人にとって良かった。13徳までいかないが一つ二つ天然の人間らしい心を持ち続けていた。
二人はみんなに呼びかけた。「科学文明のおかげで世の中のすべてが便利になった。いや、なりすぎた。便利になったり、楽をすることによって人間は大切なものを失ってしまった。自分を見つめるんだ。そうすれば必ず自分というものが見つかる。これからはそれを大切にして生きていこう。」みんなは「そうだ、そうだ」と2人のとを取り合いこれからの生き方について語り合った。気がつくともう、東の空からは、真っ赤に輝く太陽が昇っていた。人生の夜明けである。(すべてフィクションです)